20070826

映画「インランド・エンパイア」

「分からなさを楽しむ為の映画やで。」
今でもはっきりと覚えているのは、その映画を見入るに従って混乱してゆく自分の頭の中の姿。
5年前に見たデヴィット・リンチ監督の「マルホランド・ドライブ」を見たときの衝撃は時が経っても薄れることはありませんでした。物語の世界に引き込まれた途端、ぼくはひとりぼっち投げ出され、眼の前で繰り広げられる錯綜する映像にただ呆然とするだけで、そのままエンドロールまで終わってしまい映画館を出たのを覚えています。
頭の中が混乱したまま、さっそくこの映画を薦めてくれた妻に電話で「何なんこの映画。なんとなく良かったけど、ストーリーに付いて行けなかったわ・・・」と話すと勝ち誇ったかのように「ストーリーなんてあってないようなもんや。分からなさを楽しむ為の映画やで!」という答えが返ってきて、ぼくは「ああナルホドそういう世界があっても良いんや。」と変に納得してしまいました。
今回5年ぶりにデヴィット・リンチの新作が公開されるということで、劇場に出掛けました。
「インランド・エンパイア」という作品。
期待通り、脳が痺れるような5年ぶりの感覚。
ぼくたち観客はスクリーンの中の世界にやさしく迎え入れられたけれど、そこから物語は入り組んで行き絡み合い、緊張は緩むことはなく目を離すことさえはばかられ、やがて映画の深い底まで意識は沈み込んで行きました。
なんだかそんな感じ。
映像の断片の数々とその深い色合いは映画の印象として深く頭に残りました。やはり物語は分からなかったし、万人に受ける映画でもないと思うけれど、このような作品が身近で見ることができるのは、豊穣な世界があるからだと思います。
世界は分からないことばかりで、時には答えを求めるのではなく、分からなさを楽しむ余裕を持って日々過ごして行きたいと思います。