僕が初めて山に登ったのは2018年。
夏になると写真の仕事が比較的少なくなることもあって、その頃から少しずつ高い山へ登るようになりました。
槍ヶ岳のことはもちろん知っていました。
遠くの高い山から見ても、ひと目でそれと分かる、ピラミッドを縦に引き伸ばしたような山。
でも、自分が槍ヶ岳の山頂に立つなんて、その頃は考えたこともありませんでした。
昨年の夏、北アルプスの薬師岳から槍ヶ岳を見ました。
遠くに見える槍ヶ岳は、やっぱり格好いい。
「次はあそこへ行ってみたい」
その時に初めて強く思いました。

そして2026年の夏。
いよいよ槍ヶ岳へチャレンジします。
上高地から槍ヶ岳を目指し、山小屋に泊まって翌日に登頂。
帰りももう一泊して上高地へ戻る、約40kmの行程です。
むっちゃ長い・・・。
でも、むっちゃテンションが上がります。
出発までの一週間は、楽しみなのか緊張しているのか、なかなか眠れない日が続きました。
早朝に上高地を出発。この日は雨でした。
僕は登山初日の雨は、それほど嫌いではありません。
気温が上がりにくいし、雨が上がったあとの空気は、いつもより澄んでいるような気がするからです。
川沿いの道を歩き、雨に濡れた森の中を進みます。

やがて、この日の宿泊地「槍沢ロッヂ」に到着しました。
山小屋には豊富な水があり、お風呂にも入ることができました。
小さな浴槽ですが、汗と雨で重たくなった体を温めてくれます。
風呂上りにはベンチに座ってビールタイム。
流れる川の音を聞きながら飲むビールはとても旨い。
翌朝。
午前3時頃に起きて朝食を済ませ、槍ヶ岳へ向かいます。
まだ外は真っ暗。
ヘッドライトが照らすのは、自分の足元と、その少し先の登山道だけです。
周囲は静かで真っ暗で何も見えません。
なんだか別の世界に入り込んだような、不思議な感覚でした。
やがて空が少しずつ灰色になってきます。
深くて広い谷。
その向こうには、厳めしい岩肌の山。
川の流れと大きな岩山を眺めながら歩いていきます。
このあたりから登山者も増えてきました。
前の人に道を譲ったり、逆に自分たちが追い越されたり。
山頂から下りてくる人たちともすれ違います。
周りにたくさんの人がいることが、なんとなく力になりました。



そして、待ち望んでいた青空が出てきました。
ただ、かなり暑い。
途中の水場では、みんな水を浴びたり、休憩したりしています。
冷たい水が本当にありがたい。
ずっと歩き続けた体がリセットされたように爽快になります。
遠くには槍ヶ岳が見えています。
でも、歩いても歩いても、なかなか近づいてきません。
「あそこまで行くのか……」
そう思いながら、ひたすら歩きます。
標高が上がってくると、空気が薄くなってきます。
ゆっくり歩いているのに、心拍数がどんどん上がる。
少し歩いては立ち止まり、また歩く。
そんなことを繰り返しながら、ようやく稜線に出ました。



ここまで来れば、山頂はもうすぐ。
そう思っていました。
ところが、ここからがまた大変でした。
岩をよじ登り、鎖を使い、梯子を上ります。
ところどころには切れ落ちた場所もあります。
今は写真を撮っている場合じゃない。
カメラとスマホをしまい、一歩ずつ進みます。
そして、山頂直下の槍ヶ岳山荘が見えてきました。
「ここまで来た!」
と思ったのですが、
まだ山頂ではありません。
見上げると、そこには巨大な岩壁がありました。
その岩壁を登っている人たちが、小さく見えます。
「おお、これを登るのか・・」
思わずそう声が出ました。
まず家族にメッセージを送ります。
「いよいよ山頂に行くよ!」
写真も一緒に送ります。
ヘルメットのあご紐を締め直して、いよいよ最後の登りへ。
思っていた以上に岩は急です。
手を使い、足を置く場所を探しながら登っていきます。
前にも後ろにも登山者がいます。
「この岩滑りやすいから気を付けてください」
「一旦休むので先にどうぞ」
知らない人同士なのに、自然と声を掛け合います。
みんな少し緊張していて
みんなで少しずつ上へ進んでいく・・・
そんな不思議な一体感がありました。
長い梯子では、下を見ないようにして、一段ずつ数えました。
そして、その先に、、、
山頂が待っていました。
ピラミッドを縦に引き延ばしたように尖がった、あの槍ヶ岳の山頂
山頂に着くと、夏らしい雲がすぐ近くまで迫っていました。
そんな光景を見ながら、何度も深呼吸をしました。
河田洋祐

