20261001

槍ヶ岳に登る

僕が初めて山に登ったのは2018年。

夏になると写真の仕事が比較的少なくなることもあって、その頃から少しずつ高い山へ登るようになりました。

槍ヶ岳のことはもちろん知っていました。

遠くの高い山から見ても、ひと目でそれと分かる、ピラミッドを縦に引き伸ばしたような山。

でも、自分が槍ヶ岳の山頂に立つなんて、その頃は考えたこともありませんでした。

 

昨年の夏、北アルプスの薬師岳から槍ヶ岳を見ました。

遠くに見える槍ヶ岳は、やっぱり格好いい。

「次はあそこへ行ってみたい」

その時に初めて強く思いました。

 

 

 

 

そして2026年の夏。

いよいよ槍ヶ岳へチャレンジします。

 

上高地から槍ヶ岳を目指し、山小屋に泊まって翌日に登頂。

帰りももう一泊して上高地へ戻る、約40kmの行程です。

むっちゃ長い・・・。

 

でも、むっちゃテンションが上がります。

 

出発までの一週間は、楽しみなのか緊張しているのか、なかなか眠れない日が続きました。

 

早朝に上高地を出発。この日は雨でした。

僕は登山初日の雨は、それほど嫌いではありません。

気温が上がりにくいし、雨が上がったあとの空気は、いつもより澄んでいるような気がするからです。

川沿いの道を歩き、雨に濡れた森の中を進みます。

 

 

やがて、この日の宿泊地「槍沢ロッヂ」に到着しました。

山小屋には豊富な水があり、お風呂にも入ることができました。

小さな浴槽ですが、汗と雨で重たくなった体を温めてくれます。

風呂上りにはベンチに座ってビールタイム。

流れる川の音を聞きながら飲むビールはとても旨い。

 

 

 

翌朝。

午前3時頃に起きて朝食を済ませ、槍ヶ岳へ向かいます。

 

まだ外は真っ暗。

ヘッドライトが照らすのは、自分の足元と、その少し先の登山道だけです。

周囲は静かで真っ暗で何も見えません。

なんだか別の世界に入り込んだような、不思議な感覚でした。

 

やがて空が少しずつ灰色になってきます。

深くて広い谷。

その向こうには、厳めしい岩肌の山。

川の流れと大きな岩山を眺めながら歩いていきます。

 

このあたりから登山者も増えてきました。

前の人に道を譲ったり、逆に自分たちが追い越されたり。

山頂から下りてくる人たちともすれ違います。

周りにたくさんの人がいることが、なんとなく力になりました。

 

 

 

 

そして、待ち望んでいた青空が出てきました。

ただ、かなり暑い。

途中の水場では、みんな水を浴びたり、休憩したりしています。

 

冷たい水が本当にありがたい。

ずっと歩き続けた体がリセットされたように爽快になります。

 

遠くには槍ヶ岳が見えています。

でも、歩いても歩いても、なかなか近づいてきません。

「あそこまで行くのか……」

そう思いながら、ひたすら歩きます。

 

標高が上がってくると、空気が薄くなってきます。

ゆっくり歩いているのに、心拍数がどんどん上がる。

少し歩いては立ち止まり、また歩く。

そんなことを繰り返しながら、ようやく稜線に出ました。

 

 

 

 

 

ここまで来れば、山頂はもうすぐ。

そう思っていました。

 

ところが、ここからがまた大変でした。

岩をよじ登り、鎖を使い、梯子を上ります。

ところどころには切れ落ちた場所もあります。

 

今は写真を撮っている場合じゃない。

カメラとスマホをしまい、一歩ずつ進みます。

 

そして、山頂直下の槍ヶ岳山荘が見えてきました。

「ここまで来た!」

と思ったのですが、

まだ山頂ではありません。

 

見上げると、そこには巨大な岩壁がありました。

その岩壁を登っている人たちが、小さく見えます。

 

「おお、これを登るのか・・」

 

思わずそう声が出ました。

まず家族にメッセージを送ります。

「いよいよ山頂に行くよ!」

写真も一緒に送ります。

 

ヘルメットのあご紐を締め直して、いよいよ最後の登りへ。

 

思っていた以上に岩は急です。

手を使い、足を置く場所を探しながら登っていきます。

 

前にも後ろにも登山者がいます。

 

「この岩滑りやすいから気を付けてください」

「一旦休むので先にどうぞ」

 

知らない人同士なのに、自然と声を掛け合います。

 

みんな少し緊張していて

みんなで少しずつ上へ進んでいく・・・

そんな不思議な一体感がありました。

 

長い梯子では、下を見ないようにして、一段ずつ数えました。

 

そして、その先に、、、

山頂が待っていました。

ピラミッドを縦に引き延ばしたように尖がった、あの槍ヶ岳の山頂

 

山頂に着くと、夏らしい雲がすぐ近くまで迫っていました。

そんな光景を見ながら、何度も深呼吸をしました。

 

河田洋祐