毎年夏になると、どうしても大きな山に登りたくなります。
今年は北アルプスの薬師岳へ。
背負ったリュックの中には2日間の生活に必要なものをすべてが入っています。
7月の早朝、富山県にある森の中の登山口から歩き始めます。
朝の森はしっとりと濡れていて、苔の香りが濃厚に感じます。
汗を流しながら木々に囲まれて登っていると、どんどん心拍数が上がります。空気を思いっきり吐いて、思いっきり吸って・・・しんどいけれど爽快な気分。
標高が上がると木々は低くなり、やがて草原となり開け空がどんどんと広がります。
4時間半歩き通して宿泊地である太郎平に到着。
初めて訪れましたが、水が豊富で風が心地良くて「ひと夏ここで過ごしたい」と思えるような素敵な場所でした。
ここにテントを張って北ノ俣岳まで足を延ばします。
北ノ俣岳へは往復3時間ほど。標高2300メートルの快適な散歩道です。
午後になり雲が上がってきたけれど、途中ライチョウに出会いました。ゆっくりと登山道に出てきて私のことなど気にせずに餌をさがし、やがて草の中に消えて行く・・・一瞬の出来事だけどサプライズのプレゼントを貰ったような嬉しい気分。
歩き進めるとこの季節なのに雪渓も残っていました。下界は40度に迫る暑さというのにここは別世界です!
翌朝。
夜明け前の冷たい空気の中で目を覚まし、支度を整えて行動開始。
登りはじめは肌寒さを感じたけれど、すぐに汗が額を伝うようになりました。
やがて薬師岳への稜線に出ます。
そこで広がった光景に息をのみました。
逆光の中にモノトーンで広がる北アルプスの山々。山の稜線は視界の右手からはじまり左手まで続き、幾重にも重なります。
そしてその中央には槍ヶ岳の尖ったシルエット。遠くにあるため大きくは見えませんが、槍ヶ岳は圧倒的な存在感を見せていました。
格好良すぎる!!
思いもしなかった風景に出会うことができる。これが山登りをする理由かもしれません。
山のことを調べると、その山の写真を見る機会も多いけれど、この日この場所に来なければ見れない風景が必ずあるものです。
視界の右手に広がる光景に何度も足を止めながら歩みを進め、やがて目指していた山頂へ。
薬師岳の山頂に立った時に湧きあがったのは達成感だけではありませんでした。
「次はこの先の稜線に足を延ばしたい」「その次はあの山へ」「もっと遠くへ」
次々とこの先歩きたいという欲求と好奇心が湧き出して来て、帰り道の長い下り道は「次はどの山に登ろう」そんな考えで頭の中がいっぱいでした。
ちなみに・・・
わたしがテントを張った太郎平キャンプ場では、その2週間後にツキノワグマが人のテントを襲ったらしい。
ニュース映像には自分がテントを張ったすぐそばの場所が映っていました。わずかに日がずれていたら、ぼくがニュースに登場することになっていたかも知れない・・
自然は美しさもありますが容赦ありません。・・・改めて感じます。
それでもぼくはまた来年、山へ行きます。
息を切らして登り、その日その場でしか見れない風景に辿り着きたいと思います。
河田洋祐