ぼくには西宮市の越木岩、いわゆる苦楽園に縁があります。
2002年に住みはじめ、やがてアトリエもこの地域に構えました。
今はどちらも少し離れたけれど、コーヒー屋やパン屋、歯医者まで、ぼくの好きなお店はたいてい苦楽園にあり、何かと機会を見つけて足を運びます。
秋になるとこの街が少しそわそわし出します。それはだんじり祭りがあるから。
2台の大きな地車が鐘を鳴らし道を練り歩きます。その音色と人々の掛け声が混ざり合った感じが、たまらなく格好良く大好きです。
昔は住んでいたマンションやアトリエの前もだんじりの通り道で、わが子が小さい頃は一日中その後を追いかけて、ぼくのような大人も気付けば夢中になっていました。
祭りの最終日にある苦楽園口駅前の練り回しはこの祭りのクライマックスのひとつ。
普段は快適に歩ける駅前が観客でびっしりになり、地車は豪快に観客の前を全速力で走り抜けます。
普段は落ち着いた街なのに、この日だけは少し荒ぶった街の別の顔を見せてくれるのです。
20代の時にはじめてこの光景を目にしたぼくは、地車と観客の渦を見て心揺さぶられました。
あれから20年あまり。参加者の世代も替わっているのかも知れないけれど、地車のかたちも鳴り物の響きも同じようにこの街を揺さぶっています。
この変わらない感じがとても好きです。
この祭りが近付くと、もうひとつ確実にやって来るものがあります。
それは夜の冷えた空気。
昼間はまだ夏の余韻があって、つい半袖のまま出かけてしまいます。
だけど夜7時に駅前に到着し、多くの観客と共に待っている間に「寒っ!」っと震え、手に持つ缶ビールを持て余してしまう。毎年同じように冷気が体に侵入してきます。
この感覚が大好きです。
自分の頭の中では、季節はまだ夏なのに、体の外側から秋が静かに染み入って来る。
だんじりの音と夜風が混ざり合って季節が大きく進みます。
夏場はシャワーで済ませていたけれど、今日は湯船に浸かろう・・・なんて思いながら眼の前の光景を眺めました。
今年もこの祭りを見れたことに感謝します。
河田洋祐